WORK / RESEARCH · 2026.10.18

会議資料の空欄に、AIが出した数字を入れる。文章も整っているし、出典のリンクまで付いている。ここで一度、手を止めたい。そのリンクを開けば、本当にその数字と同じ意味の記述があるだろうか。
たとえば「導入企業の作業時間が32%減った」という一文。原資料では海外の一部部署だけを対象にした試験で、減ったのは作業時間ではなく問い合わせ件数だったら、提案の根拠にはできない。これは確認手順を説明するための架空例で、製品の実測結果ではない。
先に決めるのは、使ってよい根拠の条件。
確認するのは三つ。資料は実在するか。本文はその主張を支えるか。対象・時期・単位は今回の仕事に合うか。一つでも確認できなければ、その数字は保留する。AIへの再質問は確認の入口に使い、採用の根拠は原資料に残す。
1. リンクを開いて、発表元と資料名を確かめる
AIの回答欄から、参照先を実際に開く。発表元、資料名、公表日を照合する。リンク先がトップページや別の論文なら、出典確認はまだ終わっていない。原資料を特定できない数字は、会議資料から外すか「根拠確認中」として扱う。
検索で似た資料が見つかっても、AIが示した主張を後から当てはめない。著者名、調査名、発行年が一致するかを先に確認する。元の資料が有料・非公開なら、読めていない範囲を明記し、別の検証可能な根拠を探す。
2. 同じ数字より、同じ意味かどうかを見る
資料の該当ページ・表・注記まで戻り、AIが書いた一文と並べる。要約では省かれやすい「予定」「一部」「最大」「回答者のうち」がないか。相関を因果へ、意向を実績へ、見込みを確定へ変えていないかを読む。
架空の原文が「回答者の32%が、今後の導入を検討」と書いているなら、「32%の企業が導入済み」にはできない。数字が合っていても、主語と動詞が変われば別の話になる。引用する一文の前後と、表の脚注をセットで確認したい。
3. 対象・時期・単位を、今回の資料にそろえる
資料の内容が正しくても、今回の判断に使えるとは限らない。海外の調査を国内市場へ、一社の試用を業界全体へ広げない。「1人あたり」と「1社あたり」、「月額」と「年額」、「延べ回数」と「実件数」を分ける。
| 確かめる項目 | 原資料で見る場所 | 会議資料に残すこと |
|---|---|---|
| 対象 | 調査地域・人数・業種・回答条件 | 誰の結果なのか |
| 時期 | 公表日と実際の調査期間 | いつの状態なのか |
| 単位 | 表頭・軸・注記・算出方法 | 何を数え、何と比べたか |
| 範囲 | 対象プラン・除外条件・但し書き | どこまで言えるか |
料金・提供機能のように変わる情報は、確認日も記載する。古い情報には当時を知る価値があるが、今日の契約条件を保証する材料にはしない。

一文ずつ、採用・修正・保留を残す
読み終えたら、確認メモに判断を残す。目的は「AIが正しかったか」を採点することより、次の担当者が根拠まで戻れる状態をつくることだ。以下を社内メモに貼り、まず資料の中で重要な数字を一つだけ確かめてみよう。
出典確認メモ
使いたい一文:
原資料の発表元・題名:
URL/ページ・表番号:
公表日/調査期間:
対象・人数・地域:
単位・比較対象:
一致した記述/残る不明点:
判断:採用・条件を補って修正・保留
確認者/確認日:
AIには、見つけた根拠の「足りない所」を探してもらう
原資料を読む前に「本当に正しい?」と聞き直すだけでは、同じ誤りを自信たっぷりに繰り返すこともある。補助に使うなら、確認済みの原文と使いたい一文を並べ、違いを列挙させる。社内で利用が許可された環境に、共有してよい文章だけを入れる。
次の原文だけを根拠に、資料に使いたい一文を点検してください。主語、時期、数値、単位、限定条件の違いを挙げ、原文で確認できないことは「確認できない」としてください。新しい出典や数字は補わないでください。
【原文】…
【使いたい一文】…
この依頼文は当編集部の作業案で、特定モデルでの効果を実証したものではない。出てきた指摘も原文で再確認する。最後に、その一文を資料へ載せる担当者が採用を決める。
根拠にした一次資料と、この記事で提案した範囲
スペイン・エストレマドゥーラ大学図書館の検証ガイドは、参照先の存在と、参照先が実際に主張を支えることを確認するよう説明している(更新表示2026年10月8日)。米NISTの生成AIリスク管理プロファイルも、自信を伴う誤情報の生成をリスクとして整理している(2024年7月、§2.2)。両資料を2026年10月18日に確認した。
本稿の三段階、会議資料の架空例、確認メモ、依頼文は、これらの考え方を日本の職場で使うための当編集部の提案。特定製品の精度比較や、時間短縮の実証結果ではない。
会話の記録も、同じように元へ戻れるか
数字だけでなく、議事録の「承認」「検討」「保留」も、次の仕事を変える言葉だ。録音や会議メモをAIで扱うなら、元の発言へ戻り、人名・金額・決定事項を確認できるかまで試したい。Notta・tl;dv・Firefliesの導入条件を読む ↗
次は、AIの要約で落としたくない「条件・否定・責任と期限」。仕事の中で一つずつ試せる形にしていく。